TOP インタビュー なぜ、人手不足のまっただ中に出会った協力会社の半数を断ったのか?

なぜ、人手不足のまっただ中に出会った協力会社の半数を断ったのか?

2025年12月1日更新

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「職人が足りない」。建設業界の誰もが口にするこの言葉は、時として経営者を危険な誘惑へと駆り立てる。「品質」と「数」の両立が難しいとき、経営者は何を拠り所に判断すべきか。右肩上がりの成長を続ける株式会社グリーンメイクも、かつて同じジレンマに直面した。同社の決断に、これからの時代を生き抜くヒントを探る。

お話を伺った方

株式会社グリーンメイク 代表取締役 深井 貴司 氏 

2006年(平成18年)9月に同社を設立。顧客の信頼を第一に掲げ、丁寧な仕事を信条とする。業界慣行にとらわれず、会社の成長と従業員の働きやすさ向上のために新しい手法を積極的に取り入れている。

同社 林 将史 氏 

代表取締役の深井氏とともに、現場管理から事業運営まで幅広く担当し、同社の成長を支える。

「成長」が「品質」を落とすという静かな危機

「ありがたいことに、創業以来、仕事が途切れることはありませんでした。どんなご依頼も断らない。それが私たちのスタンスでしたから」

株式会社グリーンメイクは誠実な仕事ぶりで顧客の信頼をつかみ、事業を拡大してきた。しかし、その成長は別の深刻な問題を生んだ。

「仕事は増え続けるのに、動いてくれる職人さんは増えない。結果、本来は3人で対応すべき現場を2人で回すことが常態化していました。現場のメンバーは必死に取り組んでくれる。でも、心のどこかで『もっと丁寧にできるはずなのに』というもどかしさが消えませんでした」

売上は伸びている。会社は成長している。だが、自社が最も大切にしてきた「仕事の品質」という根幹が、静かに、しかし確実に損なわれていく。深井氏はその事実に強い危機感を覚えた。会社の未来を考えたとき、目の前の売上のために品質を犠牲にし続けるわけにはいかない。しかし、解決策は見当たらなかった。

「行き詰まり」が生んだ新しい一手

当時の職人探しは、知人のつてをたどるといった昔ながらの方法に限られていた。近所で見かけた腕の良い職人に、わらにもすがる思いで声をかけたことさえあったという。だが、それでも根本的な解決にはならない。

「旧来のやり方には限界がある。そう認めざるを得ませんでした」

そのとき、ふと目に留まったのが、スマホで使える職人と会社を直接つなぐITサービスだった。SNSも得意ではない深井氏にとって、それは畑違いの世界。しかし、背に腹は代えられない。

「『いつも同じやり方では、同じ結果しか出ない』。頭ではわかっていても、いざ変えるとなると勇気がいるものです。でも、あのときの私には、もうそれしか選択肢がなかった」

深井氏はまず、個人としてそのツールを使い始めた。すると、これまで出会えなかった職人たちと、驚くほど簡単に出会えた。会社の長年の課題に光明が差した瞬間だった。

8社との出会い。そして、下した「半減」という決断

ツールという新しい武器を得て、出会いの「入り口」は劇的に広がった。最終的に、新たに8社の協力会社候補と接点を持つことができた。人手不足にあえぐ会社にとって、願ってもない状況のはずだった。だが、深井氏の決断は意外だった。

「今、継続的にお付き合いしているのは、そのうちの4社だけです」

なぜ、人手が足りない状況で、出会った協力会社の半数を断る決断を下したのか。

「ツールは、あくまで出会うための『きっかけ』でしかありません。私たちが本当に探していたのは、単なる労働力ではなく、会社の根幹である『丁寧な仕事』という価値観を共有できるパートナーでした。

出会った8社と話を重ね、仕事への向き合い方を見ていく中で、私たちが目指す方向性と本当に一致したのは、この4社だった。簡単な決断ではありませんでしたが、ここで妥協してしまっては、何のためにやり方を変えたのか、わからなくなってしまいますから」

それは、目先の「数」を追うのではなく、会社の未来を支える「質」を選び取るという、経営者としての強い意思表示だった。

勇気ある決断が、次の好循環を生む

品質で妥協しないという会社の姿勢は、信頼できるパートナーにこそ伝わればよい。その決断は、やがて予期せぬ好循環を生み出した。

「継続いただいているパートナーが『あそこの会社は信頼できるから』と、腕の良い仲間をさらに紹介してくれるようになったんです。これは本当に勇気づけられました」

会社の危機は、経営者に本質的な問いを突きつける。何を妥協し、何を死守するのか。深井氏が下した『数』より『質』を選ぶという決断、そして変化を恐れないその姿勢は、不確実な時代を生き抜くための一つの確かな答えと言えるだろう。